大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成4年(行ツ)90号 判決

広島県大竹市港町一丁目五番一号

上告人

中川製袋化工株式会社

右代表者代表取締役

中川兼太郎

右訴訟代理人弁理士

松田喬

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第二六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成四年一月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松田喬の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成四年(行ツ)第九〇号 上告人 中川製袋化工株式会社)

上告代理人松田喬の上告理由

上告理由第一点とするところは原判決は「1 原告は、「願書に「業務」を記載する必要なく、しかも「業務」の記載が強行規定として文理解釈はもとより、条理解釈をなすべき余地は全く存在しない」旨主張する。

しかしながら、商標法第三条第一項柱書には、「自己の業務に係る商品について使用する商標については……商標登録を受けることができる。」と規定されており、自己の業務に係る商品について使用する商標であることが登録要件となっていることは、その規定から明らかである。

なお、商標法施行規則による様式第1において商標登録願願書に業務を表示することが要求され、これが施行されたのは昭和五一年一月一日からであり、それ以前においては、願書に業務の記載が不要であったとしても、自己の業務に係る商品について使用しない場合についてまで、登録を認める趣旨であるとは到底解されない。

したがって願書に業務の記載を要求することは法の趣旨に沿うものであり、何ら違法の謗りはなく、原告の主張は理由がない。」と判断を示しているが、上告人は右原判決の第一項記載の如き主張をなしていない。原判決はこの部分を故意にそして認識的に大きく上告人主張の内容をずらせている。上告人の主張するところは商標法第三条柱書の「自己の業務に係る商品について使用をする商標については、」とは日常的な意味に於ての規定であり、理性的な観点の範囲に於ける将来をも包含するというにあるが、本願商標の特許庁に於ける原審決は商標登録願願書は商標法施行規則第一条に規定される様式第一により作成しなければならない規定であり、その様式第一には「業務」の記載が要求され、それが要求されることによって右商標法第三条の規定は右日常的な意味に則することなく、現に行っている業務……」と記載されていると断定している。然しながら、これを現在従事している業務と解釈するならばそのような現在は全く存在せず(現にというも、また、同然である。)、即ち、これを日本語的表現を以て論議すれば現在なる観念は現在といううちに過去となり未来に移行して現在は過去、未来を包含しての現在に至り、換言すれば、現在なき現在に至るものである。故に現在とは結局、社会生活に於ける日常性の現在をいうものであり、かかる現在は法律観念的にも論理の合致性があって、これによれば目的に適応し理性的な視野を失しない限り一年先も現在であり、十日先も現在であり、その間、「業務」の断絶もない現在を肯認し得るものであり、かつ、通産省令によってしては右商標法第三条柱書の規定も変更されてない事実が明確にされるものである。即ち、右商標法は昭和三十五年四月一日に施行され、右「業務」が様式1に挿入された施行規則は昭和五十一年一月一日施行であって、その間、現行商標法は十五年有余が経過し、右商標法は右「業務」の記載施行とは全く別に存在して今日に至っている論理を構成する。然も商標法第六条第2項に「前項の商品の区分は商品の類似の範囲を定めるものではない。」との上告人の主張を裏付ける法律的論拠が存する。然るにかかる上告人の原審に於ける論告を右述した通り根本的に無視して大きくすり変えたことは判決の帰趨を根本的に変更することに堕して居り、そこに、民事訴訟法第三九四条の判決に根本的な影響のある法令違背があり、また、右原判決が付した理由は事実の認定を基本的に誤って居り、その程度は理由を付さなかったことと同然に帰することこれにより大なるはないから、同法第三九五条第1項第六号に該当する法令違背がある。即ち原判決の所論は、本願商標を使用しない場合を想定し、「自己の業務に係る商品について使用しない場合についてまで登録を認める趣旨であるとは到底解されない。」と判断しているが、上告人の主張はかくの如き論旨とは全く無関係であって、逆に自己の業務に係る商品に付いて必ず使用するのであるが、必ず使用する内容に付いて右社会生活的、理性的日常性の内容に帰すると論断しているのであり、故に右原判決の論旨は一片の空想論に外ならず、然も上告人は昭和五十一年一月一日に施行された施行規則の「業務」の規定は昭和三十五年四月一日に施行された現行法第三条柱書の右日常性の内容の論理に影響なしと論断しているものであるから、原判決の論旨は民事訴訟法第三九五条第1項第六号に該当し到底取消は免れない。

上告理由第二点とするところは原判決は

「原告は、本願商標の願書に「業務」として記載した「プラスチック製容器製造業兼紙製容器製造業」の表示が、本願商標使用の事実と全く合致する旨主張する。

しかしながら、本願商標の願書に出願人(原告)の業務が「プラスチック製容器製造業兼紙製容器製造業」と記載されていることについては当事者間に争いがなく、原告が製袋業者であって、テパートメント・ストアないしスーパー・マーケット等において、顧客に購入品を収納して渡す手提げ袋(紙製あるいはプラスチックシート製)の製造販売業者であることは原告の自認するところであり、商標法施行規則別表第九類中、産業機械器具の五「農業用機械器具」の(六)「蚕種製造または養蚕用機械器具」には、「産卵台紙、散卵収容器、雌雄鑑別機、散卵塩水選別機、散卵洗除機、散卵浸酸機、蚕種検査用機械器具、桑切り機、蚕網、蚕むしろ、飼育箱」が記載され、また第一八類中、包装用容器の四一紙製包装用容器」には、「段ボール箱、ファイバー箱、紙箱、紙袋」が、包装用容器の八「その他の包装用容器」には、「ゴム製包装用容器、プラスチックス製包装用容器、陶磁製包装用容器」が記載されている点からみて、手提げ袋等の「プラスチック製容器及び紙製容器」はいずれも商品の区分第一八類に属するものであって、第九類に属する商品でないから、本願商標の願書に「プラスチック製容器製造業兼紙製容器製造業」と記載したとしても、原告が商品の区分第九類に属する「産卵台紙、その他本願に属する商品」に係る業務を行っているものとは認められない。確かに、右「蚕種製造または養蚕用機械器具」のうち「散卵収容器」及び「飼育箱」は、それがプラスチック製あるいは紙製である場合には、「プラスチック製容器あるいは紙製容器」に包含されなくはないが、原告がこれらの商品を製造販売していることを認めるに足りる証拠はないから、本願商標の願書に「プラスチック製容器製造兼紙製容器製造業」と記載しただけでは、原告が商品の区分類第九類に属する「産卵台紙、その他本類に属する商品」に係る業務をおこなっているものとは認められない。

なお、第九類中、産業機械器具の十一「パルプ、製紙または紙工機械器具」の(三)「紙工機械器具」には「箱製造機械、ダンボール製造機械、袋製造機械」が記載されており、「紙製容器製造業」は、その中に紙袋製造業を包有し、袋製造業者が「袋製造機械」を業として使用するとしても、袋製造業者が「袋製造業者」を商品として生産し加工等するものではないから、原告が商品の区分第九類に属する「産卵台紙、その他本類に属する商品」に係る業務を行っているものとは認められない。」と判断している。

これに付いては原審決は、特許庁が商標登録出願人が「業務」に従事していることを否定した場合、逆に特許庁の認定を排除するには挙証責任が発現し、それによって証拠も提出しなければならないと断定しているものであるが、これは法律論的に根本論理を誤っているものであって、もともと、業務に従事しているか、否かは前項1に論述した通り、社会生活的、日常性の論理に帰するから主観的な論理であって、これが客観的に転換するのは人間の視野たる理性に依存する故に、その理性によって行政兼行使による認定をすることに帰する。よって民事訴訟法上の法律観念たる挙証責任とは無関係の事項である。原判決はさすがに挙証責任の行使なしとは表現しなかったが、右上告理由第二点に於ける原判決摘示文中「……また第十八類中、包装用容器の四「紙製包装用容器」には……」から以下右原判決摘示文末尾に至るまでの原判決の判断は「本類商標の願書に「プラスチック製容器製造業兼紙製容器製造業」と記載したとしても原告が商品の区分第九類に属する「産卵檀紙、その他本類に属する商品」に係る業務を行っているものとは認められない。」と判断を示しているが、上告人が右述した如く商標登録願に於て「業務」に従事しているか、否かは全く主観的論理であり、これを認められないとするのは行政上の認定たるに外ならないから、原判決が本願商標の「業務」は通産省令第十八類に属する商品の「業務」であり、同第九類に属する「業務」の記載ではないから、本願商標は「業務」の記載上、上告人が右第九類の「業務」を行っているものとは認められないとの判断を示しているが、前項1に上告人が論述した通り社会生活的、日常的論理に依存して原判決を穿つ時、その判断が無内容に堕しているばかりでなく、判決に重大な影響を及ぼす法令違背がある判決であって、民事訴訟法第三九四上違背の判決として当然取消されるべきであるとともに、本願商標の商標願書に記載した「業務」と同指定商品、その類別の合理性を求めれば、その判断には民事訴訟法第三九五上第一項六に於ける理由に齟齬のある判断があり、右両条違背の判決として取消されるべきである。また、右原判決摘示文中、末尾の原判決の判断は、商標法第二条に於ける商標権取得の目的中、加工、証明が存在することを無視しているものであって右両条に該当し、当然取消されるべ譏りをまぬがれない。

上告理由第三点とするところは原判決は

原告は、工場に据え付けた多数の袋製造機械その他付属品等に自他商品を甄別するに足る原告固有の商標を付して特有の商品たる製造機械であることを表彰する必要がある旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、原告が手提げ袋(紙製あるいはプラスチックシート製)の製造販売業者であることは原告の自認するところであり、袋製造機械を製造販売するものであることを認めるに足りる証拠はなく、また、工場に据え付けた多数の袋製造機械その他付属品等に「本願商標を使用する必要性がある。」ということだけでは、原告が指定商品に係る業務を行っているものとは認められないことは明らかである。」と判断しているが、上告人が右上告理由第一点に於て論述した通り凡そ商標法上の商標登録願は社会生活、日常性の観点に於ける現在であり、その社会生活、日常性の内容は全くの主観的内容に帰し、ただ、理性のみによって主観が客観に転換するに過ぎないから、原判決が断ずる如く証拠を提出する必要なく、従来一五年余継続した日常的観点の商標登録願(勿論、「業務」は記載するが)をすれば必要にして十分である。原判決は徒らに特許庁の原審決に左袒したか、それとも上告人を排除するため司法の権力に盲溺したかの不法行為であり、当然民事訴訟法第三九四条に違背する法令違反の判決たる譏りを免れない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例